若手エンジニアたちへのメッセージ
~技術者としての専門性を磨こう~

筆者:渡辺 信明(株式会社グローバルウェイ 取締役)

システム開発業界とエンジニア早期定年説

システム開発業界においては、新卒でプログラマとして修業し、システム・エンジニアとなり、その後はプロジェクト・リーダーやマネージャーとなるキャリア・トラックを歩むのが一般的なキャリア・モデルである。

しかし、実際には誰もが自動的に昇格できるわけではなく、マネージャー・クラスに昇進できるのは一握りである。
年齢を重ねても、マネジメントに移行できない場合には、エンジニアを続けるしかない。

しかし、こと技術の進歩は目まぐるしく、日進月歩の技術革新の中で、開発力で勝負しようとしても若いエンジニアにはかなわない。
そして、エンジニアとしての職にも燃え尽き、キャリアを右往左往することになってしまう。これが、エンジニア35歳定年説と言われる所以である。

35歳を過ぎて、人材価値の衰えないエンジニアであるためにも、マネジメントポジションを確実に得るためにも、これからのエンジニアは、業界の動向を見据えながら戦略的にキャリアを作っていかなくてはならない。

外的要因に影響されるITサービス産業

ITサービス産業は内需依存型ではあるが、大型のシステム投資案件のオーナーは日系でもグローバル企業であることが多いため、国際的な金融、経済情勢の影響がダイレクトに情報システム投資予算に反映される。
そしてそれは結果として、ITサービス企業の収益にも影響する。

また、システム開発において利用されるコア・パッケージの大半は、米国から輸入されたものであるため、この産業は外的要因の影響を非常に受けやすい。
米国のサブプライムローンに端を発する現在の金融不安から察するに、ここ数年の間はシステム設備投資に対する好材料はでてこないだろう。

一方で、ソフトウェア機能をネットワーク経由で提供するSaaSの登場や、外資系ソフトウェアベンダーのSIer化にも注目しなければならない。
SaaSの普及により既成のソフトウェアをネットワーク経由で利用する企業が増えれば、これまでスクラッチ開発を軸に事業を展開してきたSIerの業績は圧迫されてしまう。

また、従来はソフトウェアの開発、ライセンス販売のみに特化し、販売代理店を経由してエンドユーザーに導入してきた外資系ソフトウェアベンダーが、商流を直販化する傾向にある。
製品の導入支援を担うサービス部門の人員を増やし、販売後の導入作業自体も単独で行われるケースも増えてきた。
これにより、SIerだけでなく、ERPなどの特定分野でのパッケージ導入支援で大きな収益を生んできたITコンサルティング・ファームの事業領域も圧迫されることになる。

まずは自分の領域を見つけることが大切

こういった背景から、今後はひとつのシステム開発案件に対して、製品提供元としてのソフトウェア・ベンダーや、要件定義、上流設計者としてのコンサルティング・ファーム、そして開発者としてのSIerといったすみ分けがなくなってくると推測される。

情報システム産業全体の淘汰が進み、ITサービス産業全体でのM&A、合従連合が加速化する中で、事業領域を越えた転職者が増加していくであろう。
技術者にとっての企業選択の基準も、これまでのようなSIerやコンサルティング・ファーム、もしくはソフトウェア・ベンダーといった括りから、個人の専門性、ソリューションの領域を軸とした企業選択にシフトし、これまであった事業形態のボーダーラインを超えて専門性を競い合う時代に突入する。

このような状況下で、エンジニアに求められるものは、専門性であると考えられる。
エンジニアに、専門性があって当然なのは今に始まったことではない。
しかしこれからは、もっと「自分の専門性」を自分でブランディングしていかなければならない時代になってくる。
自分の専門性に据えるべき領域探しこそが重要な作業であり、時代の流れを読みながら「本当に価値のある領域」での専門性を、絶えず自分の力で開拓していかなければならない。

価値のある専門領域の選び方

では、あなたの最強の武器となる専門領域を選択するにあたっての重要なポイントを説明したい。
はじめに、その専門性は今後の市場拡大が見込まれ、爆発する一歩手前かという点。
そして、さらに深堀りすることにより、横の知識や経験も広げることが可能かという点である。

私が、自分の専門性をSOAに置いたのも、ただの偶然ではない。
新卒で入社した日系SI企業にて、間接材調達におけるB2Bマーケットプレイス構築プロジェクトに携わったことから、私自身のキャリアは始まる。

米Ariba社のAriba Buyerという電子調達システムを使ったプロジェクトであったが、このシステムには、社内システム連携機能として米TIBCO Software社が提供するEAI製品がOEMでバンドルされていた。
そのため、自然と社内システム統合業務にも携わることとなった。

当時Ariba BuyerやTIBCOの専門技術領域は、B2BやEAIと呼ばれ、言わば黎明期にあった。
このプロジェクトを通じて、業界標準化が進むB2Bのビジネスプロトコルと比較して、社内業務プロセスやインタフェースの標準化と統合の推進は明らかに遅れているということを実感した。 企業合併や提携が加速していた当時の潮流から判断しても、今後10年のシステム開発においては、システム統合技術やその方法論に対するニーズが確実に高まると考えられたのだ。
実際に欧米の市場に目を向ければ、先行して普及したB2Bベンダが潤沢な資金を武器にEAIベンダに対し盛んに買収を仕掛けていた。
優れたEAIソリューションを提供していた米Active Software社が、B2Bベンダーの米webMethods社(2007年6月独Software AG, Ltdに買収)に買収されることなったとき、買収戦略的にも、製品アーキテクチャなどの技術的側面からも、この米webMethods社がシステム統合ソリューションのリーディング・カンパニーと成り得ると確信した。

そして米webMethods社のソリューションについて独学で学習を進め、日本で最初の認定技術者となった後間もなく、webMethods社の日本法人に転職することとなる。
すべて、このソリューションで第一人者になるための、ステップだった。
webMethods社が次世代のシステム基盤アーキテクチャとしてSOAを提唱しその概念が注目を浴びたとき、私は既にその領域におけるスペシャリストだった。

ITビッグバンを経て本格的な競争社会が到来している中、システム開発業界の人事もUp or Out な制度と化していくことは十分に予測される。
この激しい技術者の人材価値競争にエッジの効いた専門性で勝利する。もちろんマネジメント層を狙えるはずだ。
欧米のIT企業では、マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏などをはじめとしたコーポレート・エグゼクティブも、始めは高い専門性を武器にキャリア・アップし、後に起業、もしくはマネジメント職に就いている。

価値ある専門性は、あなたがどんな道を選ぶにしても、強力な武器になる。今あなたがエンジニアとしてすべきことは、自分の専門性とその将来を描けているかどうかを自らに問いかけてみることだろう。